
- 生産者(ドメーヌ):チェレット社
- 国:イタリア
- 生産地(テロワール):ピエモンテ州
- 年代(ヴィンテージ):2022年
- 品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー
- 栓:コルク
- アルコール度数:14.5%
- 飲み頃の温度:16℃
- 合う料理:パスタ、生ハム、カレー
- 販売価格:3000円台
「チェレット・モンソルド・ロッソ」は、イタリア北部・ピエモンテ州の名門チェレット社が手がける赤ワイン。主にフランス系の3種類の黒葡萄をブレンドした、ピエモンテでは異色の一本である。

2022年ヴィンテージは、それぞれの品種を別々に発酵させ、300Lのフレンチオーク樽で熟成。新樽比率は40〜50%。瓶詰め前にブレンドすることで、果実味、スパイス感、樽由来のニュアンスを美しくまとめ上げている。

このワインは、ワイン漫画『神の雫』に登場する。第六の使徒を探す場面で、1997年、2002年のヴィンテージが飲まれた。作中では、奈良・飛鳥のワインバー「スパッツィオ(宇宙)」で登場し、「箱根の寄せ木細工のような飽きない味わい」「造る人は代々替わっているはずなのに、風合いも魅力もずっと変わらないワイン」と表現された。

2002年ヴィンテージは、ネッビオーロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローのブレンドだったが、2022年はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーの構成。品種は変わっても、チェレット社が大切にする「こだわりを曲げずに守り通す美学」は受け継がれている。
味わい

寄木細工の奥に、あすかルビーの赤い光。グラスから立ち上がるのは、澄み切った甘やかな香り。黒い果実の濃密さというより、朝露をまとった小さな赤い果実。まだ誰にも触れられていない果樹園で、一粒だけ完熟した実を見つけたような、無垢な香りだ。
口に含むと、確かなタンニンが舌を捉える。威圧するための渋みではなく、ワインの輪郭を静かに支える、細い骨格のようなもの。その内側から、熟した果実の甘やかさがゆっくりと広がっていく。
カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー。それぞれに異なる色と質感を持つ葡萄が、ひとつの像を結んでいる。なるほど、『神の雫』で言うように、寄木細工だ。
力強い木、柔らかな木、香り高い木。異なる木片を組み合わせながら、継ぎ目を隠そうとはしない。むしろ、その違いこそが模様となり、ひとつの美しさを生み出している。
奈良・明日香の「あすか夢市場」で買う、朝摘みの「あすかルビー」を思い出す。指先で摘まめば崩れそうなほど瑞々しく、甘さの奥に、ほんの少しだけ酸を残す。華やかでありながら、どこか素朴。その土地の光を、飾らずに抱えている。
洗練されているのに、冷たくない。力を持ちながら、強がらない。果実味の中に人懐っこい微笑みを隠した、実にチャーミングな赤ワインである。
エチケット:ラベルを脱ぎ捨てた、黒い建築

「チェレット・モンソルド・ロッソ」には、一般的な紙のエチケットがない。
漆黒のボトルそのものに、「MONSORDO」の文字が縦に刻まれている。小さな点の連なりで描かれた文字は、夜の都市に灯る窓のようでもあり、暗闇に浮かぶ星座のようでもある。光の角度によって文字は現れ、また闇へ沈む。
それは、ワインの味わいにもよく似ている。最初からすべてを語るのではなく、グラスを傾けるたび、果実、タンニン、甘やかさが少しずつ姿を見せていく。

首元を包むのは、黒地に赤いドットを並べたキャップシール。規則正しく並んだ赤い点は、葡萄の粒にも、夜の劇場に灯る客席の明かりにも見える。

重厚な黒いボトルに、赤い小さな鼓動。古典的な紋章や葡萄畑の絵を排し、文字と質感だけで存在を語る姿は、ワインボトルというより現代建築に近い。冷たく無機質に見えながら、その内部には「あすかルビー」のような無垢な果実が眠っている。
外側は漆黒。内側は、赤い果実の光。モンソルド・ロッソとは、夜の衣装をまとった、チャーミングなワインである。
料理とのマリアージュ

- ペペロンチーノ:パスタのキレを殺さず、ワインの旨みが広がる
- ナスと梅肉のパスタ:相性最高。パスタの余韻を残してワインの旨みが広がる
- 生ハム:塩気がワインの旨味を広げる
- カレー:ワインの上品な味わいがカレーのスパイス流して心地いい
- チキンソテー:鶏の塩を綺麗に洗い流す

ペペロンチーノは、ニンニクと唐辛子の鋭い輪郭を、ワインが消してしまうことはない。パスタのキレをそのまま残しながら、あとから果実の旨味をふわりと重ねる。
辛味と赤い果実が、互いの足を止めずに走っていく。ペペロンチーノの直線的な美味しさに、ワインが柔らかな奥行きを与える組み合わせだ。

ナスと梅肉のパスタは、最も素晴らしいマリアージュ。
ナスの甘みと油、梅肉の鋭い酸味。それらが口の中に余韻を残したところへ、ワインの果実味が静かに花開く。梅の酸を塗り替えるのではない。パスタの記憶を残したまま、別の赤い風景を重ねていく。
梅の赤と葡萄の赤。異なる二つの酸味が重なり、夕焼けの濃淡のような美しいグラデーションを描く。料理を食べたあとにワインを飲むのではなく、料理の物語をワインが引き継いでいる。
生ハムは塩気が、眠っていたワインの旨味を呼び覚ます。塩味を受けた果実味は一段明るくなり、タンニンも輪郭を増す。生ハムが舞台の照明となり、モンソルド・ロッソのチャーミングな表情を鮮やかに浮かび上がらせる。

カレーは、意外にも心地よい。カレーの複雑なスパイスを、ワインが正面から押さえ込むことはない。辛味の尾をさらりと流し、その奥に果実の上品な甘やかさを残す。
荒々しいスパイスの行進を、赤いドレスをまとった貴婦人が静かに通り過ぎていくようだ。カレーの力強さを失わせず、食後感だけを優雅に整える。

チキンソテーは、鶏肉にまとった塩味と脂を、ワインがきれいに洗い流す。
果実味が肉の淡白さに色を添え、タンニンが皮目の香ばしさを受け止める。重たさを残さず、次のひと口へと自然に手を伸ばさせる、端正な組み合わせである。
ドメーヌ(生産者)

チェレット社の特徴は、まず「造りたいワインの姿」を明確に思い描き、その理想に近づけるため、年ごとにブレンド比率を調整すること。そのため、いくつもの品種を育て、ヴィンテージごとの個性を見極めながら、変わらない味わいを追い求めている。
生産地(テロワール)

生産地は、北イタリアのピエモンテ州。白トリュフで有名な美食の街であり、バローロやバルバレスコといった高級赤ワインの産地としても知られる。
「ピエモンテ」とは、ピエディ(足)とモンテ(山)を組み合わせた言葉で、「山の麓」を意味する。その名の通り、アルプス山脈の麓に広がる丘陵地帯で、ワイン用ブドウは主に標高の高い斜面で栽培されている。
北側にアルプス山脈があるため、冷たい北風から守られている一方、イタリアの中では比較的涼しい地域である。夏は暑く、冬は寒い大陸性気候。アルプスの雪解け水にも恵まれ、ブドウ栽培に適した環境が整っている。
ワインライフを彩るアイテム