ワインの聖書

葡萄酒という神の雫への巡礼。家の飲みホームワイン。孤高のワインを届けます。

ギネスビール〜黒の宵闇に、白い泡が明ける

ギネス〜黒の宵闇に、白い泡が明ける

  • 国:アイルランド
  • 種類:スタウト
  • アルコール:4.5 %(瓶は5.0%)
  • 原材料:麦芽、ホップ、大麦
  • 醸造所:ディアジオ(イギリス)

ギネス(GUINNESS)は、1759年にアイルランドで誕生した、世界を代表する黒ビール。焙煎した大麦が生み出すコーヒーのような香ばしさ、きめ細かくクリーミーな泡、そして黒ビールとは思えないほどなめらかな口当たりが特徴だ。日本ではキリンビールが販売している。

日本ではビール以上に「ギネス世界記録」で知られる『ギネスブック』の名前が有名。もともとはギネス社が生み出したものだが、現在は醸造事業から独立している。

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ギネスの歴史は、創業者アーサー・ギネスが1759年、アイルランド・ダブリンのセント・ジェームズ・ゲート醸造所を借り受けたことから始まった。

原料は、水、大麦麦芽、ホップ、醸造用イースト。大麦の一部を強く焙煎することで、ギネス特有の漆黒の色と、コーヒーやカカオを思わせる香ばしい味わいを生み出している。大麦はアイルランド産を使用し、水にもこだわって造られる。

ギネスは「待って飲む」ビール

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ギネス最大の見せ場は、グラスに注いでから始まる。注いだ直後、大量の細かな泡が生まれ、黒い液体の中を波打つように動いていく。泡と液体が美しいグラデーションを描きながら、やがて上部に真っ白な泡の層をつくる。この独特の現象が「カスケードショー」だ。

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泡と液体が落ち着くまで、しばらく待つ。ギネスを飲む時間には、この“待つ楽しみ”まで含まれている。だからこそ、ギネスは缶や瓶から直接飲むより、グラスに注いで完成するビールである。

「スタウト」とは何か

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ギネスは「スタウト」、より正確には「ドライスタウト」または「アイリッシュスタウト」に分類される。

「stout」とは本来、「頑丈な」「どっしりした」といった意味を持つ英語。ビールでは、ローストした麦芽や大麦を使った濃色で香ばしいスタイルを指す。

ドライスタウトは、カラメルを思わせるほのかな甘い香りに、強く焙煎した大麦のドライな苦味が重なる。見た目は濃厚だが、実際の飲み口は意外なほど軽快。そこへ、ギネスならではのクリーミーな泡が重なり、黒ビール特有の香ばしさを柔らかく包み込む。

缶と瓶で、ギネスは別の顔を見せる

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ギネスは、缶と瓶でアルコール度数も味わいも少し異なる。

1986年から発売された缶の「ドラフトギネス」は、アルコール度数4.5%。最大の特徴は、なめらかな喉ごしとクリーミーな泡だ。缶の中には「フローティング・ウィジェット」と呼ばれる小さな球体が入っている。缶を振るとカラカラと音がするのは、このウィジェットのため。開栓すると内部のガスが働き、パブで注いだドラフトギネスのような、きめ細かな泡を家庭でも再現してくれる。

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一方、瓶の「ギネス オリジナル エクストラスタウト」はアルコール度数5.0%。ドラフトギネスよりもしっかりした苦味と重厚なコクがあり、ギネス本来の力強くクラシックな味わいを楽しめる。

同じギネスでも、缶は「泡となめらかさ」、瓶は「苦味とコク」。気分によって飲み分けるのも面白い。

味わい

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まず感じるのは、清涼感。よく冷えたアイスコーヒーを口にしたようだ。香ばしい。冷たい。そして、すっきりしている。その直後、ロースト麦芽の苦味がゆっくり後ろから追いかけてくる。

最初から苦味で押してこない。一拍遅れてやってくる。遠くで鳴った鐘の音が、少し遅れて街へ届くような苦味だ。ドラフトギネスは、そのすべてをクリーミーな泡が丸く包む。舌の上を黒い液体が滑るのに、不思議なほど重たくない。

瓶になると、さらに輪郭が濃くなる。アルコール感が少し増し、コーヒーを思わせる焙煎香も強くなる。缶が「クリーミーな黒」なら、瓶は「香ばしい黒」。同じギネスという名の兄弟でも、表情は違う。

ギネスには250年以上の歴史がある。けれど、歴史を背負って威張らない。

ひとりで静かに飲んでもいい。仲間との再会に飲んでもいい。過ぎ去った時間を思い出しながら飲んでもいい。白い泡がゆっくり落ち着き、黒い液体が姿を現す。

人生にも、すぐに答えを出さなくていい時間がある。二分くらい待てばいい。やがて濁っていたものが静まり、黒と白が、美しく分かれていく。

料理とのベアリング

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フィッシュ&チップス:◎

これは王道にして最高。揚げ物の油を、ギネスのローストした苦味がすっと切る。ポテトの甘みを受け止め、次の一口へ舌を整える。とりわけアジフライのような魚のフライとは抜群だ。衣の油が入った直後にギネスを流し込む。すると、ビールの喉越しそのものが一段速くなる。油と苦味が追いかけっこをして、最後には泡だけが残る。

ソーセージ:⚪︎

脂をきれいに洗い流す。ソーセージの塩気と肉汁を、ギネスの焙煎香が受け止める。肉の旨味は残し、脂だけをさらっていく。何杯でも飲めてしまう理由がよくわかる。

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カルボナーラ:◎

意外に思えるが、これも相性最高。濃厚なカルボナーラの甘みとコクに、ギネスのコーヒーを思わせる香ばしさが重なる。チーズの甘みの向こうからロースト香が現れ、皿全体を少し大人にする。白いソースに、黒い影を落とすマリアージュ。

カレー:○

スパイスの熱と、ギネスの苦味。どちらも強い。だが、ぶつからない。カレーの辛味が舌に残ったところへギネスを入れると、ロースト麦芽のキレが輪郭を整える。辛さを消すのではなく、次の一口へ切り替える。

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ローストビーフ:△

甘みのあるタレと黒ビールの苦味が好相性。肉そのものよりも、むしろソースとの相性がいい。甘いタレをギネスの苦味が締めることで、ローストビーフが少し精悍な表情になる。

サラミ:○

ギネスビール〜黒の宵闇に、白い泡が明ける

サラミとの組み合わせも面白い。一般的なビールのように炭酸で脂を切るのではなく、ギネスのコーヒーを思わせるロースト香が、サラミの塩気と脂を少し上品に包み込む。ジャンクなおつまみのはずなのに、どこかホテルのスイートルームでつまんでいるような気分になる。黒い泡とサラミの赤が並ぶだけで、食卓が少しだけ非日常へ変わる。

漫画にも登場するギネス

ギネスは、毎晩必ず奇跡が起こるビール専門バー「BEER CAT」を舞台にした漫画『ビールの時間』VOL.1「ドラフトギネス」でも紹介されている。

漫画『バーテンダー』第11話「クリスマスの奇跡」には、さらに洒落た飲み方が登場する。

瓶のギネスとモエ・エ・シャンドンのシャンパーニュを同量、同時にグラスへ注ぐカクテル「ブラック・ベルベット」だ。黒いスタウトと黄金色のシャンパーニュ。庶民的なパブの酒と華やかな祝杯がひとつのグラスで交わる。ギネスという酒の懐の深さを感じさせるカクテルである。

新宿「バガボンド」の憶い出

新宿「バガボンド」

新宿駅西口から徒歩2分。1976年創業の老舗バー&居酒屋「バガボンド」が名物のひとつとしているのが、ギネスビールだ。

新宿「バガボンド」

店内は、1910年代のパリが最も華やいだベル・エポック(美しき時代)を思わせる雰囲気。新宿を離れて奈良へ帰郷する前の2025年4月11日、前職の仲間4人で集まった。会社を卒業して以来、2年半ぶりの再会だった。

早稲田のオフィスで働いていた頃、緊急事態宣言によって街の灯が消えた。それでも俺たちは飲んだ。

近くのスーパーで酒とつまみを買い込み、多い月には9回も飲み明かした。朝まで語り、そのまま出社する。今思えば無茶な日々だった。

けれど、あの時間が今の自分を支えている。思い出とは、過去形ではなく未来形だ。

オフィスでの飲み会でも、話題の多くは仕事だった。どうすれば会社が良くなるのか。どうすれば仲間たちと笑って働けるのか。酒を飲みながら、本気で議論した。

新宿「バガボンド」

当時はまだビールが苦手だった。それでも、この日のギネスはするりと喉を通った。

ガムシャラに走り抜けた仲間と酌み交わす一杯は、やはり格別だった。黒い液体と白い泡を眺めていると、あの頃の会話までグラスの中から浮かび上がってくる。

ギネスの苦味には、少しだけ人生の味がする。

ヒューガルデン・ホワイト〜ビール嫌いに扉を開くベルギーの白、白い霧の向こうから、オレンジの花が咲く

ヒューガルデン・ホワイト〜ビール嫌いに扉を開くベルギーの白、白い霧の向こうから、オレンジの花が咲く

  • 国:ベルギー
  • 種類:ベルジャン・ホワイト
  • アルコール:5.0 %
  • 原材料:大麦麦芽、ホップ、小麦、コリアンダーシード、オレンジピール
  • 醸造所:アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)

ヒューガルデン・ホワイトは、世界最大級のビール会社アンハイザー・ブッシュ・インベブ(AB InBev)が手がけるホワイトビール。「世界でいちばん愛されているホワイトビール」とも謳われ、日本でもベルギービールの代表格として知られる一本である。

ヒューガルデン・ホワイト〜ビール嫌いに扉を開くベルギーの白、白い霧の向こうから、オレンジの花が咲く

グラスに注いだ瞬間から、一般的なビールとは景色が違う。黄金色ではある。だが、どこか霞んでいる。朝靄の向こうから太陽が昇り、その光を薄いヴェールで包んだような淡いイエロー。濾過しないベルジャン・ホワイト特有の濁りが、透明なビールにはない柔らかな光を抱えている。その上に、真っ白な泡がふわりと乗る。雪原に新雪が積もっていくように、モコモコと、クリーミーに。

ヒューガルデン村から蘇った白いビール

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ベルジャン・ホワイトは、ベルギーのヒューガルデン村で14世紀から造られてきた古いビアスタイルである。小麦を使い、さらにコリアンダーシードとオレンジピールを加える。一般的なラガーとはまったく異なる、香りと柔らかさを楽しむビールだ。

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しかし、時代はピルスナーへと流れていく。1957年、ヒューガルデン村からホワイトビールの醸造が途絶えた。ここで物語が終わっていたなら、ヒューガルデンは歴史書の片隅に残るだけの名前だったかもしれない。だが、1965年。牛乳屋だったピエール・セリスが40歳のとき、廃業していたレモネード工場を買い取り、再びホワイトビールを造り始める。消えた味を、もう一度。

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村の名をそのまま背負わせ、「ヒューガルデン・ホワイト」と名付けた。一度失われたものを復活させるという行為には、商品開発以上の意味がある。

それは、記憶を醸すこと。濾過せず、瓶の中で二次発酵させる。そのため酵母由来の複雑な香味が残り、ヒューガルデン独特の白濁と柔らかな味わいにつながっている。現在はベルギーだけでなく、日本やアメリカなどでも広く親しまれている。

白いカンヴァスに描かれた「杖」と「鍬」

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ヒューガルデンのデザインは、「杖」と「鍬」が向き合うように描かれている。杖は、ビール造りの技術を伝えた伝道師。鍬は、麦を育てる農民。この小さなマークの中に「知恵」と「大地」がある。

造る人だけではビールにならない。麦を育てる人だけでもビールにはならない。受け継がれた技術と、土から生まれた原料。その二つが出会って初めて一杯になる。

それを、何百文字もの説明ではなく、たった二つの道具で語っている。これはビールのラベルというより、ヒューガルデン村から届いた古い植物図鑑の一頁のようである。

漫画にも登場するヒューガルデン・ホワイト

ヒューガルデン・ホワイトは、毎晩必ず奇跡が起こるビール専門バー「BEER CAT」を舞台にした漫画『ビールの時間』VOL.5「ヒューガルデンホワイト」に登場する。

ビールが苦手な人のためのビールとして紹介される。

味わい:苦味のあとに、白い風が吹く

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ひと口目。まず、爽やかな苦味が輪郭を描く。次に現れるのが、驚くほどの透明感。その透明な余白へオレンジの酸味が舞い込み、コリアンダーの香りがわずかにスパイスを添える。最後に、小麦の甘みがふわり。
苦い。爽やか。甘い。味覚の波が三段階で寄せてくる。

バナナのような濃厚さもあるのに重たくならず、ヨーグルトを思わせる柔らかな酸味が、すべてを丸く包み込む。もし通常のビールが、真夏の日差しだとするなら、ヒューガルデンは木陰だ。明るい。しかし眩しすぎない。風がある。だから何杯でも飲めそうになる。


このビールは、トマトパスタとの相性がいい。オレンジピール由来の柑橘感がトマトの酸と重なり、小麦のまろやかさが料理の角を包み込む。そして最後に、炭酸と爽やかな苦味が口中を洗い流す。ここはチビチビ飲むより、むしろゴクゴクいきたい。

ヒューガルデン・ホワイトは、強さを競わない。苦味で威圧もしない。それでも、一杯飲めば忘れない。600年近い歴史を背負いながら、入口では決して腕を組まない。
「ビールって、もっと自由でいいんだよ」

オレンジの香りをまとった白い一杯が、そう囁いてくる。

「水曜日のネコ」〜週の真ん中の休符、肩の力を抜く、気まぐれな一杯

「水曜日のネコ」〜週の真ん中の休符、肩の力を抜く、気まぐれな一杯

  • 国:日本(長野)
  • 種類:ベンジャミン・ホワイトエール
  • アルコール:5.0 %
  • 原材料:大麦麦芽(外国製造又は国内製造(5%未満))・小麦麦芽・ホップ・オレンジピール・コリアンダーシード
  • 醸造所:ヤッホーブルーイング(長野)

「水曜日のネコ」は、長野県のヤッホーブルーイングが製造・販売するベルジャンホワイトエール。2012年11月21日に発売された。

ベルジャンホワイトエールとは、ベルギー発祥のビアスタイル。大麦麦芽だけでなく、小麦や麦芽化していない小麦を使い、オレンジピールやコリアンダーなどのスパイスを加えて造る。白く濁った外観と、華やかな香り、やわらかな口当たりが特徴。

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「水曜日のネコ」には、オレンジピールとコリアンダーシードを使用。柑橘を思わせる爽やかな香りに、ほのかな甘酸っぱさが重なる。苦味はかなり穏やかで、小麦由来のやさしく滑らかな口当たりも印象的。

ヤッホーブルーイングでは、キンキンに冷やしすぎず、10℃前後で飲むことをすすめている。温度が少し上がることで、オレンジピールやコリアンダーの香りが開き、このビールらしい華やかさをより楽しめる。

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名前の由来もユニーク。月曜日から金曜日まで頑張る一週間。その真ん中にある水曜日くらいは、ビールを片手に少し力を抜き、ネコのようにのんびり気ままに過ごしてほしい。そんな思いから「水曜日のネコ」と名付けられた。

淡い水色の缶に描かれた、左右で色の異なる猫の顔。赤、青、黄色を使った幾何学的なデザインは、一度見たら忘れない。冷蔵庫を開けてネコと目が合うだけで、少し肩の力が抜ける。一週間の真ん中に置かれた小さな休符である。

漫画『琥珀の夢で酔いましょう』にも登場

「水曜日のネコ」は、京都を舞台にしたクラフトビール漫画『琥珀の夢で酔いましょう』第2話「すばらしくてTAP CHOICE」にも登場する。

京都にある「白熊」をクラフトビール専門店にするため、主人公・剣崎七菜たちがビールを研究する中で、七菜がイチオシとして挙げたのが「水曜日のネコ」だった。

その理由は、「味も見た目も圧倒的にかわいい」から。

店主の隆一は、その味わいを「日本酒みたい」と表現し、カメラマンの鉄雄は「ハーブティーみたい」と評する。作中では鯛のカルパッチョと合わせ、爽やかな香りと繊細な魚の旨味を楽しんでいる。

味わい

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鼻を近づけると、オレンジピールの柑橘香と、コリアンダーのほのかなスパイスが立ち上がる。

口当たりはやわらかく、苦味はごく控えめ。小麦由来のまろやかさが舌を包み、そのまま喉へすっと抜けていく。ベルジャンホワイトらしい柔らかさの中に、ラガーを思わせる爽快感がある。

そのしなやかさは、猫そのもの。野良猫ではなく、毛並みの整ったシャム猫。気品があり、どこか気まぐれで、目を離せない。

思い出すのは、レイモンド・チャンドラー原作の映画『ロング・グッドバイ』。

夜の街。乾いた会話。煙草の煙。探偵フィリップ・マーロウのように、大声で主張しない。それでも、そこにいるだけで空気を変える。

「水曜日のネコ」も、その軽やかさの中に、不思議な品がある。

一週間の真ん中、水曜日。疲れた身体にネコのように身体を伸ばし、「まあ、今日はこれくらいでいい」と思わせてくれる一杯。

料理とのペアリング

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  • モロヘイヤのおひたし:互いが喧嘩せず、スッキリ喉を通る
  • トマト丼:ビールの苦味がすこし出て心地いい
  • ハンバーグ:ラガービールのようにゴクゴクビールが進む

モロヘイヤの青々とした風味と、とろりとした食感。その横を「水曜日のネコ」の柑橘香が、そっと通り抜ける。どちらかが相手を押しのけることはない。野菜の青さをビールが消すこともなく、ビールの華やかさを料理が曇らせることもない。互いに一定の距離を保ちながら、同じ方向を向いている。喉を通る頃には、モロヘイヤの粘りもビールの甘酸っぱさもきれいにほどけ、最後には爽やかさだけが残る。夏の夕方に縁側で風を待つような、心地よい相性。

トマト丼は、トマトの瑞々しい酸味が入った瞬間、このビールの表情が少し変わる。

普段は影を潜めている苦味が、すっと輪郭を現す。トマトの甘酸っぱさ。その向こうから、ホップの淡い苦味が一本の線を引く。赤と金。トマトの酸味がビールを引き締め、ビールの爽快感がトマトの瑞々しさをもう一段前へ押し出す。軽いのに、味がぼやけない。「水曜日のネコ」の隠れていた爪が、ほんの少しだけ見えるペアリング。

ハンバーグは、意外にも、力強い料理との相性もいい。肉汁とデミグラスソースの濃厚さを受け止めたあと、「水曜日のネコ」を流し込む。すると、ベルジャンホワイトであることを一瞬忘れる。炭酸と爽快感が、ラガービールのように口の中を駆け抜け、肉の脂をきれいにさらっていく。

繊細な香りを鑑賞するというより、この瞬間だけは豪快にゴクゴク飲みたくなる。上品なシャム猫が、突然庭へ飛び出して走り始めたような意外性がある。

醸造所(ブルワリー)

ヤッホーブルーイングは、長野県軽井沢町に本社を置く、日本を代表するクラフトビール製造会社。創業者は星野リゾートの星野佳路氏で、1996年に軽井沢で「株式会社ハーヴェスト」として創業。

「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに掲げ、画一的な味の多かった日本のビール市場に多様性と新しいビール文化を生み出した。

きっかけは学生時代にニューヨークで飲んだエールビール。深い味わいを予感させる琥珀色、口に広がる華やかな味わい、のど越しだけではない、後にも残る深いコクに感動し、日本でビジネスにすることを決意。1997年に「よなよなエール」を発売して以降、日本のクラフトビールの代名詞となり、業界を牽引している。

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「黄桜 LUCKY CAT( ラッキーキャット )」〜ゆずが微笑み、山椒がふっと爪を立てる。料理の幸福を呼び込む白い猫のビール

「黄桜 LUCKY CAT( ラッキーキャット )」〜ゆずが微笑み、山椒がふっと爪を立てる。料理の幸福を呼び込む白い猫のビール

  • 国:日本(京都)
  • 種類:ホワイトエール
  • アルコール:5.0 %
  • 原材料:麦芽、ホップ、米、ゆず、山椒
  • 醸造所:黄桜

「黄桜 LUCKY CAT(ラッキーキャット)」は、京都・伏見にある黄桜の新醸造所「伏水蔵」で初めて造られたクラフトビールである。発売は2017年5月26日。

京都の名水で造られる幸運、良質な原材料に恵まれた幸運、腕利きのブルワーに託された幸運。その名には、いくつもの“ラッキー”が折り重なっている。

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米を使用しているためボディはライト、苦味はザーツを使用した上品な苦味、色味はうすいゴールド。ゆずの香りと和山椒の隠し味が、料理の味をおいしく引き出す。

ビールのスタイルは、ホワイトエール。大麦麦芽のほかに小麦や麦芽にしていない小麦を使用し、白く濁った見た目とフルーティーで爽やかな味わいが特徴。

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LUCKY CATの缶は、淡い白に近いアイスブルーの地色。中央には、シルエットのように描かれた猫の顔。細く伸びたヒゲ、すました目元、そして頭には小さなシルクハット。胸元には蝶ネクタイを思わせるワンポイント。

洋装に身を包んだ京都の紳士淑女のように、きちんとしていて、どこか遊び心がある。黄桜らしい和の気配を内側に秘めながら、表情はあくまでモダン。クラフトビールらしい自由さと、京都ブランドの品のよさが、一匹の猫の顔に同居している。

「今日は、どんな料理を連れてきたの?」

そんなふうに、猫のほうから食卓へ語りかけてくるようだ。

漫画『琥珀の夢で酔いましょう』にも登場

「黄桜 LUCKY CAT( ラッキーキャット )」は、京都を舞台にしたクラフトビール漫画『琥珀の夢で酔いましょう』第31話「日曜の昼はグラウラーが生きがい」に登場する。

白味噌入りのキーマカレーや餃子と相性のいいビールとして紹介され、軽やかな飲み口とスパイス感が、料理に負けない魅力として語られる。

味わい

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爽やかな苦味の奥で、山椒が小さく笑う。ひと口目、まず訪れるのは爽やかさ。軽快で、明るく、肩の力を抜いてくれる。そこへ、ゆずの香りがすっと風を通し、遅れて山椒のニュアンスが現れる。

刺激的すぎるわけではなく、味わいの奥で“和”の輪郭をすっと引き直してくる。ビールなのに、どこか和食の気配がある。洋の飲み物でありながら、京都の町家の障子越しの光が似合う。軽いボディの中に、香りと苦味の余韻が丁寧に仕込まれている。

飲み終えたあとに残るのは、「何か食べたい」と思わせる余白である。

つまり、このビールは食卓を知っている。ひとりで完結せず、料理と出会って初めて完成する。LUCKY CATは、料理を呼び込むビールである。

料理とのペアリング

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カレーと合わせると、このビールは一気に表情を変える。スパイスの熱気に押されるどころか、ゆずの香りがその辛味に光を差し込み、山椒の気配がスパイスと手を取り合う。苦味はカレーの輪郭を整え、重たくなりがちな後味をすっと引き締める。

夏の午後に遠くで鳴っていた祭囃子が、夕風に乗って急に近づいてくるような感覚。濃厚な皿の上に、風が吹く。軽いのに弱くない。LUCKY CATは、カレーの情熱を受け止めながら、最後に涼やかさを置いていく。

餃子

餃子と合わせた瞬間、このビールの魅力はさらに弾ける。香ばしく焼けた皮、あふれる肉汁、にんにくや野菜の旨み。そこへLUCKY CATを流し込むと、爽やかさが一気に爆発する。油を切る、というより、旨みを抱えたまま駆け抜けていく。

これは“ランナー”だ。止まらない。餃子をひとつ。ビールをひと口。また次のひとつへ、足が、手が、自然に前へ出る。

苦味、柑橘、山椒のアクセントが、餃子のふくよかさを軽やかに変えてしまう。喉を抜けるたびに、食欲が更新されていく。このマリアージュには、勢いがある。しかも、その勢いが乱暴ではなく、気持ちいい。

黄桜 LUCKY CAT 350ml

醸造所(ブルワリー)

黄桜株式会社は、京都府京都市伏見区横大路に本社を置く酒造メーカー。1925年(大正14年)、伏見の蔵元「澤屋」(現・松本酒造)から分家する形で創業した。スローガンは「くつろぎ、うるおい、かがやく。」

かつては河童をキャラクターにしたテレビCMでも広く知られた。

宝酒造の「松竹梅」や月桂冠と並び、京都・伏見を代表する全国的な酒造メーカーのひとつ。伏見は、兵庫の灘、広島の西条と並ぶ「日本三大酒処」として知られている。

社名の「黄桜」は、当時の社長が黄桜の花を好んでいたことに由来する。黄桜とは、淡い緑色を帯びた白い花を咲かせるサトザクラの一種である。

伏見の酒造りを支えてきたのが、良質な地下水「伏水」。ミネラル分をほどよく含む中硬水で、発酵がゆるやかに進むため、口当たりがやわらかく、ほのかな甘みを感じさせる酒に仕上がりやすい。ミネラル分の多い硬水を使い、発酵が力強く進むことで辛口に仕上がる灘の「男酒」に対し、伏見の酒は古くから「女酒」と呼ばれてきた。

黄桜は日本酒だけでなく、ビール造りにも力を入れている。その完成度は高く、日本酒メーカーが造る“もうひとつの酒”という枠に収まらない存在感を放っている。 

黄桜 LUCKY CAT 350ml

モレッティビール(ビッラ・モレッティ)〜イタリアの陽光は、苦味のあとに微笑む

モレッティビール(ビッラ・モレッティ)〜イタリアの陽光は、苦味のあとに微笑む

  • 国:イタリア
  • 種類:ラガービール
  • アルコール:4.6 %
  • 原材料:大麦麦芽、トウモロコシ、ホップ
  • 醸造所:ビッラ・モレッティ

モレッティビール。正式名称は「ビッラ・モレッティ・ラウテンティカ」

1860年夏から愛され続けてきた、イタリアを代表するビールである。米国、英国、カナダ、日本をはじめ、現在では世界40カ国以上へ輸出されている。

グラスに注げば、目を奪うのは澄んだ黄金色だ。真夏のイタリア、石畳の街を夕方まで照らしていた太陽が、最後の光だけをグラスの中へ置いていったような色。

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細かな泡が静かに立ち、爽やかなホップの香りが鼻先を抜ける。そこへ、しっかりした苦味と、トウモロコシ由来の穀物のやわらかな風味が重なる。

ルイジ・モレッティから始まった物語

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始まりはフリウリ地方ウーディネ。当時37歳だったルイジ・モレッティが、「ビールと製氷工場」を設立した。裕福な商人の家に生まれ、家族がオーストリア近辺と取引していたことから、穀物、ワイン、蒸留酒、食糧、ビールの卸売りにも精通していた。

モレッティには、そんな長い旅をしてきたビールの物語がある。このビールを語るなら、缶の中央にいる紳士を外せない。

モレッティビール(ビッラ・モレッティ)〜イタリアの陽光は、苦味のあとに微笑む

1942年、当時の社長ラオ・モレッティは、ウーディネのレストラン「トラットリア・ボシェッティ」で、ひとりの紳士を見かけた。帽子をかぶり、口ひげを蓄えた男。

どこかクラシックで、気取りがなく、それでいて堂々としている。その姿に、ラオは自分たちのビールが持つ「伝統」「本物らしさ」を見た。

写真を撮らせてもらえないか。そう頼み、謝礼に何が欲しいかと尋ねたところ、紳士はこう答えたという。

「ビッラ・モレッティを、もう1杯」

なんとも粋な話である。以来、この男の姿はモレッティの象徴となった。広告を見たイタリアの男たちは、「これは自分たちではないか」と感じた。王侯貴族でも、映画スターでもない。酒場でビールを飲む、ごく普通の男。

何年にもわたってさまざまな俳優がこの「ラベルの男」を演じ、1970年代には著名なアーティスト、ブルーノ・ボツェットが、この人物を主人公とした漫画広告シリーズまで制作している。

モレッティビール(ビッラ・モレッティ)〜イタリアの陽光は、苦味のあとに微笑む

モレッティの缶は、ビール売り場でも一度見るとなかなか忘れない。アイボリーを基調に、赤い大文字で弧を描く「BIRRA MORETTI」。そして中央には、ジョッキを掲げる帽子姿の紳士。現代的なクラフトビールのような奇抜さはない。

むしろ少し野暮ったい。洒落たレストランのソムリエではなく、町角のトラットリアで何十年も昼飯を食べてきた常連客のような安心感がある。

「難しいことはいい。まず飲め」

そんな声が聞こえてきそうだ。赤、緑、白というイタリアを思わせる色使いも含め、缶そのものが小さなイタリアの酒場になっている。高級感ではなく、人生を楽しんでいる人間の顔をラベルにしたビール。そこがモレッティらしい。

漫画にも登場するモレッティ

モレッティビールは、毎晩必ず奇跡が起こるビール専門バー「BEER CAT」を舞台にした漫画『ビールの時間』VOL.7「モレッティビール」でも紹介されている。

父親から遺された会社が倒産し、借金取りに追われ、自ら命を絶とうとした会社社長。

人生最後の酒として注文したのは、「この世で一番うまいビールをください」

その言葉に、マスターが差し出したのがモレッティだった。

味わい

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最初に感じるのは、炭酸だ。かなり鮮烈である。不思議なことに、激しいのに、やさしい。舌の上を細かな泡が一気に駆け抜け、爽やかなホップの香りを運び、そのあとから麦芽とトウモロコシの穀物感が追いかけてくる。

しっかり苦い。しかし、口の中に居座らない。苦味が役目を終えると、潔く消える。真夏の午後に突然降った通り雨。激しく石畳を叩いたと思えば、数分後には青空が戻っている。あとに残るのは、濡れた街と澄んだ空気だけ。

この透明なキレこそ、モレッティの美味しさである。「世界一美味しい」と言いたくなる人がいるのも、わかる。モレッティとは、イタリアの陽光を飲むビールである。

 

料理とのペアリング

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イタリア料理と合わせた瞬間、ビールが故郷へ帰る。

パスタを食べ、モレッティを流し込む。その瞬間、ビールの旨みとキレが一段強く弾ける。パスタの油やソースを流すだけではない。料理を受け止めたことで、モレッティ自身まで美味しくなる。

ピッツァも負けず劣らず。チーズのコク、トマトの酸味、焼けた生地の香ばしさ。そこへモレッティを流し込めば、炭酸がチーズの重さをさらい、苦味がトマトを引き締め、最後にあの透明なキレが食卓をリセットする。

そして、また次の一切れへ手が伸びる。ピッツァがビールを欲しがり、ビールがピッツァを呼ぶ。

モレッティは、ひとり静かに分析するより、大皿のパスタや焼きたてのピッツァを囲み、誰かと笑いながら飲みたいビールである。

「黄桜 京都麦酒 ゴールドエール」〜祇園囃子の前に、ふっと立ちのぼる吟醸香

  • 国:日本(京都)
  • 種類:酒イーストビール
  • アルコール:4.0 %
  • 原材料:麦芽、ホップ
  • 醸造所:黄桜

「黄桜 京都麦酒 ゴールドエール」は、1995年、京都初の地ビールとして誕生した「京都麦酒」シリーズのひとつ。全国でも7番目という、地ビール黎明期から歩み続けてきた一本である。

造り手は、日本酒で知られる黄桜。清酒造りで培った醸造技術を生かし、日本酒の仕込みにも使われる京都・伏見の名水「伏水」で醸している。

京都の酒文化が、ビールという器に姿を変えて流れ込んだ一杯である。

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京都駅の土産物店などでは、「ペールエール」「ブラウンエール」とともに3本セットでも販売されている。京都の風景ではなく、京都の空気を持ち帰る土産である。

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このビールは、酒イーストビール(清酒酵母ビール)にあたる。通常のビール酵母ではなく、日本酒の醸造に使われる清酒酵母を用いて発酵させることで、リンゴや洋梨、バナナを思わせる、吟醸酒のように華やかでフルーティーな香りを生み出している。

味わい

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口に運んだ瞬間、まずやって来るのは吟醸酒を思わせる、甘やかでやわらかな香り。台の熱気が立ちこめる宵山の通りに、ふっと流れ込んでくる白檀の香りのようだ。

人が多い。暑い。賑やかだ。なのに、一瞬だけ空気が澄む。そんな感じがある。

そのあと、遅れてほのかな苦味が現れる。その苦味も強く押してこない。香りの余韻を乱さず、そっと輪郭を与える程度にとどまる。最後に、キレが来る。

甘やかな香りを残しながら、あと口は驚くほどすっと引く。だから重たくならない。飲み終えたあと、もう一度口に運びたくなる。

祇園祭のような夏のビール。きらびやかで、華があり、どこか艶やかなのに、後には不思議な涼しさが残る。賑わいの中心にいながら、汗ばんだ首筋を夜風がすっと撫でていくような一杯。

祇園囃子が遠くで鳴り、提灯の明かりが揺れる。その夜の空気を、ひと口ごとに思い出させるビールである。

料理とのペアリング

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唐揚げ、相性最高。衣の油を、ビールが綺麗に洗い流す。そのあと、ふわりと苦味が広がり、口の中に爽快感が生まれる。夏祭りの屋台で熱々の唐揚げを頬張り、次の瞬間に夜風を吸い込むような気持ちよさがある。

グラタンは、意外なようでいて、よく合う。熱とコクを抱えたグラタンに合わせても、このビールはお酒としての旨みを失わない。むしろ、まろやかなソースの余韻に寄り添いながら、その美味しさをそのまま伸ばしていく。

一口目では、グラタンの豊かさを壊さずに受け止める包容力がある。食べ進めると、今度はビールの苦味がやや際立ち、全体をきりっと引き締める。同じ料理でも、最初は寄り添い、後半は輪郭を与える。その表情の変化が実に面白い。

醸造所(ブルワリー)

黄桜株式会社は、京都府京都市伏見区横大路に本社を置く酒造メーカー。1925年(大正14年)、伏見の蔵元「澤屋」(現・松本酒造)から分家する形で創業した。スローガンは「くつろぎ、うるおい、かがやく。」

かつては河童をキャラクターにしたテレビCMでも広く知られた。

宝酒造の「松竹梅」や月桂冠と並び、京都・伏見を代表する全国的な酒造メーカーのひとつ。伏見は、兵庫の灘、広島の西条と並ぶ「日本三大酒処」として知られている。

社名の「黄桜」は、当時の社長が黄桜の花を好んでいたことに由来する。黄桜とは、淡い緑色を帯びた白い花を咲かせるサトザクラの一種である。

伏見の酒造りを支えてきたのが、良質な地下水「伏水」。ミネラル分をほどよく含む中硬水で、発酵がゆるやかに進むため、口当たりがやわらかく、ほのかな甘みを感じさせる酒に仕上がりやすい。ミネラル分の多い硬水を使い、発酵が力強く進むことで辛口に仕上がる灘の「男酒」に対し、伏見の酒は古くから「女酒」と呼ばれてきた。

黄桜は日本酒だけでなく、ビール造りにも力を入れている。その完成度は高く、日本酒メーカーが造る“もうひとつの酒”という枠に収まらない存在感を放っている。

「黄桜 京都麦酒 ブラウンエール」〜秋風のあとから、キャラメルがやってくる

「黄桜 京都麦酒 ブラウンエール」〜秋風のあとから、キャラメルがやってくる

  • 国:日本(京都)
  • 種類:アルト
  • アルコール:5.0 %
  • 原材料:麦芽、ホップ
  • 醸造所:黄桜

「黄桜 京都麦酒 ブラウンエール」は、1995年、京都初の地ビールとして誕生した「京都麦酒」シリーズのひとつ。全国でも7番目という、地ビール黎明期から歩み続けてきた一本である。

その赤は、朱塗りの鳥居、紅葉、時代祭の装束。京都という街に古くから存在してきた「赤」を連想させる。

造り手は、日本酒で知られる黄桜。清酒造りで培った醸造技術を生かし、日本酒の仕込みにも使われる京都・伏見の名水「伏水」で醸している。

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京都駅の土産物店などでは、「ペールエール」「ゴールドエール」とともに3本セットでも販売されている。京都の名所を写真に収めて持ち帰るのもいい。旅の記憶を酒にして持ち帰るのもいい。三本並べれば、京都の季節を詰めた小さな酒蔵になる。

アルトは、ドイツ・デュッセルドルフ地方に伝わる赤銅色のビール。ドイツ語で「古い」を意味する「Alt」の名の通り、ラガーが主流となる以前から続く上面発酵の伝統的な製法で造られる。華やかなフルーティーさを前へ出すのではなく、麦芽の甘み、香ばしさ、ホップの苦味を静かに重ねる。

新しさを競わない。古いものを、古いまま残すのでもない。受け継いできたものを、今の一杯として飲ませる。その姿勢は、どこか京都そのものにも似ている。

味わい

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グラスに注げば、赤銅色。夕陽を受けた寺院の柱のような、温かみのある褐色が浮かぶ。

口に含むと、ホップの苦味が、細い線を引く。秋の夕暮れに吹く風のように、頬を撫でて通り過ぎる程度の苦味。そのあとから麦芽由来のキャラメルを思わせる甘みが現れる。苦い。甘い。どちらも前へ出すぎない。鉦や太鼓、笛の音が、それぞれ別の音色を持ちながら、一つの行列になって都大路を進んでいく。

かなり美味しい。濃色ビールの見た目から想像するほど重たくなく、モルトのコクを残しながら、飲み口にはきちんと余白がある。

華やかな春ではなく、少し乾いた風が吹き始める京都の秋。平安から明治へ、さまざまな時代の装束をまとった人々が静かに行列する「時代祭」のように、苦味、香ばしさ、甘みが順番に舌の上を通り過ぎていく。京都の秋を赤銅色にしてグラスへ注いだようなビールである。

料理とのペアリング

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黄桜公式のおすすめは、餃子、冷奴、串カツ。

このビールは単体で主役になるというより、食卓に入った瞬間に力を発揮する。

冷奴:◎

淡い豆腐を、ブラウンエールのモルト感がふわりと包む。最初はビール。次に豆腐の柔らかな甘み。そして最後に醤油の香りが追いかけてくる。白い豆腐の静けさに、赤銅色のビールがそっと羽織を掛ける。穏やかだが、相性はかなりいい。

餃子:○

餃子の脂が入ることで、ビールの苦味が少し鮮明になる。しかし、濃すぎない。焼き目の香ばしさと麦芽の香ばしさが重なり、むしろ苦味が心地よく感じられる。

餃子を食べる。ビールを飲む。また餃子へ戻る。箸とグラスが、自然に往復する組み合わせだ。

焼きそば:○

こちらも餃子と同じく、料理の油とソースによってビールの苦味が輪郭を増す。甘辛いソースのあとに赤銅色の液体を流し込むと、甘さを一度断ち切ってくれる。それでいて、モルトの甘みまで消えない。焼きそばの庶民的な力強さと、ブラウンエールの香ばしさ。秋祭りの屋台で出会ったような、気取らない相性である。

醸造所(ブルワリー)

黄桜株式会社は、京都府京都市伏見区横大路に本社を置く酒造メーカー。1925年(大正14年)、伏見の蔵元「澤屋」(現・松本酒造)から分家する形で創業した。スローガンは「くつろぎ、うるおい、かがやく。」

かつては河童をキャラクターにしたテレビCMでも広く知られた。

宝酒造の「松竹梅」や月桂冠と並び、京都・伏見を代表する全国的な酒造メーカーのひとつ。伏見は、兵庫の灘、広島の西条と並ぶ「日本三大酒処」として知られている。

社名の「黄桜」は、当時の社長が黄桜の花を好んでいたことに由来する。黄桜とは、淡い緑色を帯びた白い花を咲かせるサトザクラの一種である。

伏見の酒造りを支えてきたのが、良質な地下水「伏水」。ミネラル分をほどよく含む中硬水で、発酵がゆるやかに進むため、口当たりがやわらかく、ほのかな甘みを感じさせる酒に仕上がりやすい。ミネラル分の多い硬水を使い、発酵が力強く進むことで辛口に仕上がる灘の「男酒」に対し、伏見の酒は古くから「女酒」と呼ばれてきた。

黄桜は日本酒だけでなく、ビール造りにも力を入れている。その完成度は高く、日本酒メーカーが造る“もうひとつの酒”という枠に収まらない存在感を放っている。

黄桜 京都麦酒 ペールエール〜葵祭のように雅で、春風のように消えていく

黄桜 京都麦酒 ペールエール〜葵祭のように雅で、春風のように消えていく

  • 国:日本(京都)
  • 種類:ペールエール
  • アルコール:5.0 %
  • 原材料:麦芽、ホップ
  • 醸造所:黄桜

「黄桜 京都麦酒 ペールエール」は、1995年、京都初の地ビールとして誕生した「京都麦酒」シリーズのひとつ。全国でも7番目という、地ビール黎明期から続く一本である。

造り手は、日本酒で知られる黄桜。清酒メーカーとして培ってきた醸造技術を生かし、日本酒の仕込みにも使われる京都・伏見の名水「伏水」を使って醸している。

伏見の水、鴨川の流れ、五月の青空。京都の「水」と「風」を色にしたような缶である。

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ペールエールは、18世紀のイギリスで生まれた上面発酵の淡色ビール。「ペール」は「淡い色」を意味し、麦芽のコクとホップ由来の爽やかな香り、苦味のバランスを楽しむスタイルである。

「京都麦酒 ペールエール」にも、その特徴が素直に表れている。麦芽の厚みが苦味を受け止め、そこへ伏水の柔らかさが一本の川を通す。苦味とコクがありながら、最後まで重たくならない。

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京都駅の土産物店などでは、「ゴールドエール」「ブラウンエール」とともに3本セットでも販売されており、京都を飲んで持ち帰る土産としても面白い。

漫画『琥珀の夢で酔いましょう』にも登場

「黄桜 京都麦酒 ケルシュ(瓶ビール)」は、京都を舞台にしたクラフトビール漫画『琥珀の夢で酔いましょう』第9話「Come and Get Your Life side:B」に登場する。

主人公・剣崎七菜は、大人気女優・MAKOTOとの休日デートで、パンとビールを買ってピクニックへ。京都御所のベンチに腰掛け、明太子パン、トマトと生バジルのパン、クリームチーズとラムレーズンのパンを「京都麦酒 ケルシュ」と合わせる。

明太子パンでは、「明太子そのものより、パンのふくよかさとビールの柔らかさがマッチする」と評価。トマトと生バジルのパンは、「ケルシュと合わせることでフレッシュな風味が生き生きする」、クリームチーズとラムレーズンのパンでは、「ケルシュがチーズの酸味を引き立てる」と、それぞれの相性を紹介している。

味わい

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一口目から、しっかりとした苦味がやってくる。その後ろには麦芽のコクがある。ところが、余韻は意外なほど短い。深い苦味を残して居座るのではなく、喉を通過した瞬間、風にさらわれるようにスーッと消えていく。

たとえるなら、葵祭の行列だ。鮮やかな装束をまとった人々が京都御所からゆっくりと進んでいく。華やかだが、祇園祭のような熱狂ではない。雅で、静かで、どこか涼しい。行列が通り過ぎたあとには、春の風だけが残る。

ホップの苦味には芯があり、麦芽には確かなコクがある。それなのに、飲み終えたあとには重さを残さない。春の京都を吹き抜ける風のようなペールエールである。

そして、この短い余韻こそが、料理と合わせたときに大きな武器になる。

単体で完成しすぎない。料理が隣に座る余白を、きちんと残している。

料理とのペアリング

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黄桜公式のおすすめは、春巻き、エビチリ、鰹のカルパッチョ、ホタテの刺身。実際に飲んでみても、このビールは料理を連れてきたときに本領を発揮する。

ピザパン:◎

トマトの酸味とチーズのコクを受け止めると、強かったビールの苦味が不思議なほど丸くなる。反対に、トマトは酸っぱさより甘みを見せ始める。それぞれが一歩ずつ譲ることで、初めて見える景色がある。ビールがピザパンを美味しくし、ピザパンがビールを優しくする。放課後のパン屋で買ったピザパンが、京都のカフェの一皿へ変わるような組み合わせだ。

エビチリ:◎

これは納得のペアリング。海老の甘み、油、そしてチリソースの甘辛さ。その濃い味をペールエールの苦味が正面から受け止める。だが、洗い流すだけではない。甘辛いソースとホップの苦味が一瞬重なり、ひとつの味になったあと、炭酸とともに喉の奥へ消えていく。口の中には何も重さを残さない。次の海老が欲しくなる。次のビールも欲しくなる。赤いエビチリと青い京都麦酒。色は正反対なのに、口の中では見事に同じ歩幅で進んでいく。

春巻き:○

主役は完全にビールだ。春巻きの繊細な味わいでは、ペールエールの苦味を押し返すことはできない。パリッとした皮の香ばしさと、野菜や餡のほのかな甘みが、ビールの背中をそっと押す。春巻きを食べたあとに飲めば、その甘みを拾いながら苦味が立ち上がり、最後はすっと消えていく。

マリアージュというより、春巻きがビールへ花道をつくる組み合わせである。

醸造所(ブルワリー)

黄桜株式会社は、京都府京都市伏見区横大路に本社を置く酒造メーカー。1925年(大正14年)、伏見の蔵元「澤屋」(現・松本酒造)から分家する形で創業した。スローガンは「くつろぎ、うるおい、かがやく。」

かつては河童をキャラクターにしたテレビCMでも広く知られた。

宝酒造の「松竹梅」や月桂冠と並び、京都・伏見を代表する全国的な酒造メーカーのひとつ。伏見は、兵庫の灘、広島の西条と並ぶ「日本三大酒処」として知られている。

社名の「黄桜」は、当時の社長が黄桜の花を好んでいたことに由来する。黄桜とは、淡い緑色を帯びた白い花を咲かせるサトザクラの一種である。

伏見の酒造りを支えてきたのが、良質な地下水「伏水」。ミネラル分をほどよく含む中硬水で、発酵がゆるやかに進むため、口当たりがやわらかく、ほのかな甘みを感じさせる酒に仕上がりやすい。ミネラル分の多い硬水を使い、発酵が力強く進むことで辛口に仕上がる灘の「男酒」に対し、伏見の酒は古くから「女酒」と呼ばれてきた。

黄桜は日本酒だけでなく、ビール造りにも力を入れている。その完成度は高く、日本酒メーカーが造る“もうひとつの酒”という枠に収まらない存在感を放っている。

「コナ ビッグウェーブ ゴールデンエール」一口でワイキキへ、ハワイの空と海と太陽を溶かした、“飲む夏休み”

「コナ ビッグウェーブ ゴールデンエール」

  • 国:ハワイ(アメリカ)
  • 種類:ゴールデンエール
  • アルコール:4.5 %
  • カロリー:132kcal(瓶)
  • 原材料:麦芽、ホップ
  • 醸造所:コナ・ブルーイング・カンパニー(ハワイ)

「コナ ビッグウェーブ ゴールデンエール」は、ハワイを代表するクラフトビールのひとつ。泡の白は砂浜へ打ち寄せる波、液体を満たす金色は水平線から昇る朝日。ハワイの太陽を、そのままグラスの中へ溶かしたような色をしている。

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エールタイプでありながら重たさはなく、南国らしいフルーティーな香りと、やわらかな甘みが特徴。ホップには「ギャラクシー」「シトラ」を使用し、トロピカルフルーツや柑橘を思わせる華やかなアロマが広がる。苦味は控えめで、後味は驚くほどすっきり。香りを楽しむエールの魅力と、ラガーのようにゴクゴク飲める爽快感を両立した、まさに常夏のビールだ。

「コナ ビッグウェーブ ゴールデンエール」

「ビッグウェーブ」の缶には、オアフ島西海岸にあるサーフィンの名所「マカハ」の大波が描かれている。鮮やかなブルーの海、押し寄せる波、アウトリガーカヌー。缶を眺めているだけで、ハワイの潮風が吹いてくるようだ。一口飲めば、シャツのボタンをひとつ外したくなる。そんな自由が、この黄金色にはある。

漫画『琥珀の夢で酔いましょう』にも登場

「ビッグウェーブ ゴールデンエール」は、京都を舞台にしたクラフトビール漫画『琥珀の夢で酔いましょう』第4話「鴨川は淡いブルース」にも登場する。

物語の舞台は、祇園祭を控えた6月30日、夏越祓の夜。主人公たちは鴨川の橋の下に腰を下ろし、ビッグウェーブを開ける。

そこで語られるのが、「花のような香りがありながら、味わいはクリア。エールらしい柔らかさがあり、後味はキレる」という魅力だ。ラガービールに慣れた日本人にも親しみやすく、まさに「夏のエール」と呼びたくなる。

錦市場で買った漬物と合わせれば、塩気や発酵の旨味を受け止めながら、ビッグウェーブの柔らかさと爽やかさがさらに広がる。ハワイのビールが京都の夏と交差する、面白いマリアージュだ。

ホノルルマラソンの思い出

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「コナ ビッグウェーブ ゴールデンエール」を初めて飲んだのは、2017年12月だった。

ホノルルマラソンを走るためオアフ島を訪れ、到着初日に泊まったコテージで友人と乾杯した。

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翌朝、夜明けの海岸線を歩いた。空が少しずつ明るくなり、椰子の木の向こうから太陽が昇る。青い海と白い砂浜が朝日に染まっていく光景を眺めながら、「地上にも楽園はある」と思った。

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だから今でも、ビッグウェーブの青い缶を見ると、あの朝が戻ってくる。黄金色のビールの向こうに、朝焼けの海岸線と、どこまでも続くハワイの青い海が見える。ハワイの記憶まで一緒に栓を開ける酒である。

味わい

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最初にやってくるのは、レモンやグレープフルーツを思わせる柑橘の爽やかさ。そして、奥から白い花のようなフローラルな香りがふわりと立ち上がる。

味わいは軽快。麦芽の甘みはある。しかし、甘さに身体を預けようとした瞬間、ホップの穏やかな苦味が波のようにさらっていく。

甘い。爽やか。少し苦い。その三つが順番に現れるのではなく、南国の風のように一度に吹き抜ける。目を閉じれば、ワイキキの浜辺が見える。

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真っ青な空。海面に乱反射する太陽。沖から戻ってくるサーファー。椰子の葉を揺らす風。そして、どこからともなく聞こえるウクレレ。

喉を通過したあとには、何かを強く主張する余韻ではなく、「もう一口飲みたい」という爽やかな空白だけが残る。その空白こそ、ビッグウェーブの美味しさ。

これは、ハワイの空と海と太陽を溶かした、「飲む夏休み」である。

料理とのベアリング

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  • ポキ丼:少し甘めのタレをビールの爽やかな苦味が音楽をセッションする
  • 漬物:漬物の酸味をビールの苦味で包容しケンカしない
  • コロッケ:油を綺麗に流し、さっぱりする

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最も素晴らしかったのが、ハワイ料理のポキ丼。

マグロとアボカドに絡む、少し甘めのタレ。その甘みが舌の上へ残ったところへビッグウェーブを流し込むと、ホップの爽やかな苦味が飛び込んでくる。

甘いタレと苦味が喧嘩するのではない。ジャズのセッション。ポキ丼がベースラインを刻み、ビールが高音のサックスを吹く。異なる音なのに、同じリズムへ乗っている。

魚の旨味を消すことなく、脂や甘さだけをきれいに流し、次の一口を呼び込む。海から生まれた料理と、海を感じさせるビール。ハワイの食卓が、そのまま完成するペアリングである。

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『琥珀の夢で酔いましょう』で合わせた漬物。漬物の塩味と酸味を、ビッグウェーブの苦味が大きな波のように受け止める。酸味を消すのではない。包み込む。

漬物を食べたあとに残る塩気を泡がさらりと洗い流し、麦芽の淡い甘みがあとから寄り添う。『琥珀の夢で酔いましょう』で京都の漬物と合わせた理由もよく分かる。

ハワイの海と京都の古都。まったく違う風景なのに、グラスの中では不思議なほど自然に握手する。

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揚げ物との相性もいい。熱々のコロッケを頬張れば、衣の香ばしさと油、ジャガイモの甘みが口いっぱいに広がる。そこへビッグウェーブ。泡が油をさらい、ホップの苦味が甘みを引き締める。重たかった口の中に、突然、海風が吹く。コロッケをもう一個。そして、ビールをもう一口。この往復運動が止まらなくなる。

醸造所(ブルワリー)

コナ・ブリューイング・カンパニー(KONA BREWING)は、1994年春、キャメロン・ヒーリーと息子のスプーン・カルーサによって、ハワイ島カイルア・コナで設立された。掲げたのは、ハワイの自然とアロハスピリットを映し出すビール造り。

常夏の島で気持ちよく飲めるよう、すっきりとした飲み口、控えめな苦味、柑橘や南国の果実を思わせるフルーティーな香りを大切にしている。

コナビールを象徴する言葉が「Liquid Aloha」。直訳すれば、「液体になったアロハ」。コナビールは単なるアルコール飲料ではなく、ハワイの海、風、太陽、自然、そして人々のアロハスピリットまで一本に詰め込もうとしている。

チェレット・モンソルド・ロッソ〜黒いボトルに眠る、あすかルビーの赤い光

  • 生産者(ドメーヌ):チェレット社
  • 国:イタリア
  • 生産地(テロワール):ピエモンテ州
  • 年代(ヴィンテージ):2022年
  • 品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー
  • 栓:コルク
  • アルコール度数:14.5%
  • 飲み頃の温度:16℃
  • 合う料理:パスタ、生ハム、カレー
  • 販売価格:3000円台

「チェレット・モンソルド・ロッソ」は、イタリア北部・ピエモンテ州の名門チェレット社が手がける赤ワイン。主にフランス系の3種類の黒葡萄をブレンドした、ピエモンテでは異色の一本である。

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2022年ヴィンテージは、それぞれの品種を別々に発酵させ、300Lのフレンチオーク樽で熟成。新樽比率は40〜50%。瓶詰め前にブレンドすることで、果実味、スパイス感、樽由来のニュアンスを美しくまとめ上げている。

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このワインは、ワイン漫画『神の雫』に登場する。第六の使徒を探す場面で、1997年、2002年のヴィンテージが飲まれた。作中では、奈良・飛鳥のワインバー「スパッツィオ(宇宙)」で登場し、「箱根の寄せ木細工のような飽きない味わい」「造る人は代々替わっているはずなのに、風合いも魅力もずっと変わらないワイン」と表現された。

チェレット・モンソルド・ロッソ

2002年ヴィンテージは、ネッビオーロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローのブレンドだったが、2022年はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーの構成。品種は変わっても、チェレット社が大切にする「こだわりを曲げずに守り通す美学」は受け継がれている。

味わい

寄木細工の奥に、あすかルビーの赤い光。グラスから立ち上がるのは、澄み切った甘やかな香り。黒い果実の濃密さというより、朝露をまとった小さな赤い果実。まだ誰にも触れられていない果樹園で、一粒だけ完熟した実を見つけたような、無垢な香りだ。

口に含むと、確かなタンニンが舌を捉える。威圧するための渋みではなく、ワインの輪郭を静かに支える、細い骨格のようなもの。その内側から、熟した果実の甘やかさがゆっくりと広がっていく。

カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー。それぞれに異なる色と質感を持つ葡萄が、ひとつの像を結んでいる。なるほど、『神の雫』で言うように、寄木細工だ。

力強い木、柔らかな木、香り高い木。異なる木片を組み合わせながら、継ぎ目を隠そうとはしない。むしろ、その違いこそが模様となり、ひとつの美しさを生み出している。

奈良・明日香の「あすか夢市場」で買う、朝摘みの「あすかルビー」を思い出す。指先で摘まめば崩れそうなほど瑞々しく、甘さの奥に、ほんの少しだけ酸を残す。華やかでありながら、どこか素朴。その土地の光を、飾らずに抱えている。

洗練されているのに、冷たくない。力を持ちながら、強がらない。果実味の中に人懐っこい微笑みを隠した、実にチャーミングな赤ワインである。

 

エチケット:ラベルを脱ぎ捨てた、黒い建築

チェレット・モンソルド・ロッソ

「チェレット・モンソルド・ロッソ」には、一般的な紙のエチケットがない。

漆黒のボトルそのものに、「MONSORDO」の文字が縦に刻まれている。小さな点の連なりで描かれた文字は、夜の都市に灯る窓のようでもあり、暗闇に浮かぶ星座のようでもある。光の角度によって文字は現れ、また闇へ沈む。

それは、ワインの味わいにもよく似ている。最初からすべてを語るのではなく、グラスを傾けるたび、果実、タンニン、甘やかさが少しずつ姿を見せていく。

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首元を包むのは、黒地に赤いドットを並べたキャップシール。規則正しく並んだ赤い点は、葡萄の粒にも、夜の劇場に灯る客席の明かりにも見える。

チェレット・モンソルド・ロッソ

重厚な黒いボトルに、赤い小さな鼓動。古典的な紋章や葡萄畑の絵を排し、文字と質感だけで存在を語る姿は、ワインボトルというより現代建築に近い。冷たく無機質に見えながら、その内部には「あすかルビー」のような無垢な果実が眠っている。

外側は漆黒。内側は、赤い果実の光。モンソルド・ロッソとは、夜の衣装をまとった、チャーミングなワインである。

 

料理とのマリアージュ

チェレット・モンソルド・ロッソ

  • ペペロンチーノ:パスタのキレを殺さず、ワインの旨みが広がる
  • ナスと梅肉のパスタ:相性最高。パスタの余韻を残してワインの旨みが広がる
  • 生ハム:塩気がワインの旨味を広げる
  • カレー:ワインの上品な味わいがカレーのスパイス流して心地いい
  • チキンソテー:鶏の塩を綺麗に洗い流す

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ペペロンチーノは、ニンニクと唐辛子の鋭い輪郭を、ワインが消してしまうことはない。パスタのキレをそのまま残しながら、あとから果実の旨味をふわりと重ねる。

辛味と赤い果実が、互いの足を止めずに走っていく。ペペロンチーノの直線的な美味しさに、ワインが柔らかな奥行きを与える組み合わせだ。

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ナスと梅肉のパスタは、最も素晴らしいマリアージュ。

ナスの甘みと油、梅肉の鋭い酸味。それらが口の中に余韻を残したところへ、ワインの果実味が静かに花開く。梅の酸を塗り替えるのではない。パスタの記憶を残したまま、別の赤い風景を重ねていく。

梅の赤と葡萄の赤。異なる二つの酸味が重なり、夕焼けの濃淡のような美しいグラデーションを描く。料理を食べたあとにワインを飲むのではなく、料理の物語をワインが引き継いでいる。

生ハムは塩気が、眠っていたワインの旨味を呼び覚ます。塩味を受けた果実味は一段明るくなり、タンニンも輪郭を増す。生ハムが舞台の照明となり、モンソルド・ロッソのチャーミングな表情を鮮やかに浮かび上がらせる。

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カレーは、意外にも心地よい。カレーの複雑なスパイスを、ワインが正面から押さえ込むことはない。辛味の尾をさらりと流し、その奥に果実の上品な甘やかさを残す。

荒々しいスパイスの行進を、赤いドレスをまとった貴婦人が静かに通り過ぎていくようだ。カレーの力強さを失わせず、食後感だけを優雅に整える。

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チキンソテーは、鶏肉にまとった塩味と脂を、ワインがきれいに洗い流す。

果実味が肉の淡白さに色を添え、タンニンが皮目の香ばしさを受け止める。重たさを残さず、次のひと口へと自然に手を伸ばさせる、端正な組み合わせである。

 

ドメーヌ(生産者)

チェレット・モンソルド・ロッソ

チェレット社の特徴は、まず「造りたいワインの姿」を明確に思い描き、その理想に近づけるため、年ごとにブレンド比率を調整すること。そのため、いくつもの品種を育て、ヴィンテージごとの個性を見極めながら、変わらない味わいを追い求めている。

生産地(テロワール)

チェレット・モンソルド・ロッソ

生産地は、北イタリアのピエモンテ州。白トリュフで有名な美食の街であり、バローロやバルバレスコといった高級赤ワインの産地としても知られる。

「ピエモンテ」とは、ピエディ(足)とモンテ(山)を組み合わせた言葉で、「山の麓」を意味する。その名の通り、アルプス山脈の麓に広がる丘陵地帯で、ワイン用ブドウは主に標高の高い斜面で栽培されている。

北側にアルプス山脈があるため、冷たい北風から守られている一方、イタリアの中では比較的涼しい地域である。夏は暑く、冬は寒い大陸性気候。アルプスの雪解け水にも恵まれ、ブドウ栽培に適した環境が整っている。

 

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