
- 国:アメリカ
- 種類:ベルジャン・ホワイト
- アルコール:5.5 %
- 原材料:麦芽、ホップ、小麦麦芽、オーツ麦、コリアンダーシード、オレンジピール
- 醸造所:モルソン・クアーズ社(アメリカ)
「ブルームーン」は、全米でナンバーワンのクラフトビールとして知られる一本。
その生まれ故郷が面白い。修道院でも、古い醸造所でもない。
野球場である。

ベルギーのブリュッセル大学で醸造の博士号を取得したキース・ヴィラが1995年、アメリカ・コロラド州デンバーの野球場「クアーズ・フィールド」内にあったサンドロット醸造所で生み出した。
このビールには最初からスタジアムの風が吹いている。青空。芝生。スタンドの歓声。乾いた打球音。球場の空に浮かぶお月様。

ビールの名前になった「ブルームーン」とは、ひと月に二度満月が訪れる現象を指す言葉でもある。直訳すれば「青い月」。しかし英語では、「めったに起こらないこと」を意味する。
味わいに感激したファンのひとりが「ONCE IN A BLUE MOON!(こんな素晴らしい味は奇跡だ!)」と声を上げたことから、「BLUE MOON」の名が生まれた。
めったに起こらないこと。一生に何度あるかわからない、青い月のような奇跡。
「今日という夜は、少し特別かもしれない」
そんな予感まで一緒に飲むビールである。

ブルームーンは、より深いフレーバーを残すために濾過をしていない。そのため、缶や瓶の底にはビール酵母が残ることがある。飲む前には横に寝かせ、ゆっくり転がして澱をなじませる。そして最後に、グラスの縁へスライスしたオレンジを一枚。黄色い果実が、青い缶の隣で月になる。ビールそのものをカクテルのように完成させる、この最後のひと手間まで含めてブルームーンなのだ。秋の夜なら、お月見ビールになる。
味わい

まず感じるのは、驚くほどの透明感。ベルジャン・ホワイトというと、小麦の甘さやスパイスの香りが前面に出るものも多い。ブルームーンにはそれがある。それなのに、重たくない。舌の上を、冷たい夜風のようにすっと走る。
そのあと、オレンジピールの柑橘が現れる。夜空に少しずつ浮かび上がる三日月のように、香りが輪郭を持ちはじめる。さらにコリアンダーのスパイス、小麦とオーツ麦の柔らかさが、その月の周囲に淡い光輪をつくる。
爽やかで、若々しい。1995年生まれのビールなのに、不思議なほど古びない。むしろ、今年誕生したクラフトビールだと言われても信じてしまいそうなモダンさがある。
日本の新しいクラフトビールにも通じる、軽やかな洗練。これは満月ではない。完成しきった荘厳さではなく、これから満ちていく月。まだ少し欠けているからこそ美しい。
グラスの向こうに見えるのは、オレンジ色の三日月が浮かぶ、澄み切った夜空だ。
料理とのペアリング

カルボナーラ:◎
月がクリームの海へ溶ける。卵とチーズの濃厚なコクを、ブルームーンの柑橘が鮮やかに切っていく。小麦とオーツ麦の柔らかな甘みがソースのクリーミーさを受け止め、オレンジピールの爽やかさだけが次の一口へ舌を連れていく。濃厚なカルボナーラの上へ、一筋の月明かりが差す。白いソースと白いビール。似た者同士が抱き合ったあと、柑橘の光だけが弾ける。ブルームーンを飲むなら、一度は試してほしいマリアージュだ。
トマトパスタ:◎
太陽と月が同じ皿に昇る。トマトの瑞々しい酸味に、オレンジの柑橘香が寄り添う。
赤いトマトは太陽。グラスのオレンジは月。本来なら同時には空にない二つの光が、食卓の上で並ぶ。ゴクッと飲めば、トマトの甘酸っぱさが一度きれいにほどけ、そのあと小麦の柔らかな甘みが戻ってくる。
ブルームーンは、ベルギービールへの敬意から生まれたアメリカのビールでありながら、ベルギーの伝統だけには収まらない。野球場で生まれ、オレンジを月に変え、青い缶の中に夜空を閉じ込めた。爽やかで、モダンで、少しロマンチック。
ブルームーンとは、一杯のビールによって、ありふれた夜を奇跡に変える酒なのだ。






































































