ワインの聖書

葡萄酒という神の雫への巡礼。家の飲みホームワイン。孤高のワインを届けます。

神の雫ワイン知ったかBOOK

人生を変えられた漫画が2つある。『DRAGON BALL』と『神の雫』である。前者は細胞そのもの。困難や危険なことにチャレンジするとき、「だからこそ面白い」と足を踏み出せるのはDRAGON BALLが細胞になってくれたおかげ。

もう一つが『神の雫』。ワインの奥深さはもちろん、人生の深淵、ワインの素晴らしさを超える表現の華やかさ、豊潤さに衝撃が走った。原作者の亜樹直(あぎ ただし)さんがロマネ・コンティ(DRC)のエシェゾー1985年を飲んだ瞬間、雷に打たれたような衝撃を受け、ワインの世界をもっと掘り下げてみたいという思いが止まらなくなったように。『神の雫』が単にワインの美味しさを伝導するマンガであれば人生は変わっていない。同じ表現者として血湧き肉躍った。もっと言うなれば、遠峰一青という男の生き様に自分を見た。そして初めて漫画のキャラをライバルだと思った。「ワインの世界に足を踏み入れたときから正気など捨てました」。そのセリフは物書きの道を歩む自分そのもの。そんなバイブルである『神の雫』の原作者がワイン指南書を出した。

神の雫ワイン知ったかBOOK

神の雫ワイン知ったかBOOK』。なんと素晴らしいタイトル。それまで家でお酒を一滴も飲まなかった僕の人生を変えてしまうほどのワイン漫画を生み出した創造神が自らを「知ったか」と名乗る。自虐でも自嘲でも自己顕示でもない。この姿勢こそ神の雫の表現が生まれた母胎。5000以上あるソムリエ用語は覚えず、ワインの世界観をアーティスティックな感情に訴える。「黒髪の長い女性が佇んでいるようなワイン」などのインプレッションで表現する。この本はソムリエを目指す知識書ではなく、ノムリエ(ワインを飲む専門家)を目指す知恵の実である。知識を詰め込む受験勉強ではなく、ワインの学び方を学ぶ大学の講義のようなもの。

神の雫ワイン知ったかBOOK

ボルドーの赤ワインを偏愛する亜樹直さんらしい赤枠の装丁も素晴らしい。ワインの勉強で最も大切なことは、ワインを楽しみたいという純粋な好奇心。子どものような率直な気持ちでワインと向き合って楽しむことと語る。そして「ワインにアルコールが入っていなければ、もっともっとたくさん飲めるのに」とワインラヴァーの気持ちも代弁。

亜樹直さんにとってワインとは「酔うための酒」ではなく、感動や発見を感じるためのもの。ワインは人と人とをつなげ、イマジネーションを飛躍し、そして哲学を持っている。良いワインを飲んだとき、グラスの向こう側に「何か」を感じる。ワインはドラマチックな物語を見せてくれる。優れたワインは哲学を持っている。造り手がなにを見ているか、なにを造りたいと思っているか、哲学的な思いを持っている人の造るものほど、飲み手に感動を与える。フランスの生物学者ルイ・パストゥール「1本のワインボトルの中には、すべての書物にある以上の哲学が存在する」と語ったのは至言である。

亜樹直さんはワインを理解したいならフランスのワインからスタートして欲しいと語る。どの国のワインもどこかしらにフランスワインの存在を感じることが多いからだ。どの国のワイン生産者も代表的なフランスワインをイメージしながら造っている。フランスワインにはワインの魅力も難しさもすべて備わっている。フランスワインを知ること=ワインを知ることにもなる。そう亜樹直さんは語る。

この本の中では亜樹直さんおすすめのワインと料理のペアリングが紹介される。「新成人が初めて飲むワイン」「結婚式の前夜に飲むワイン」「仲直りしたい人と飲むワイン」などバラエティに富み、「ウユニ塩湖が広がるマリアージュ」などお馴染みの「神の雫」節も全開。

ワインはネットショップで買うことを勧める。20以上のメルマガ登録をする。無料試飲会に参加して1日100種類以上のワインを飲む。ワイン千本ノック。かつてワインを保存するためだけにアパートの一室を借り、光を遮断する壁を手作りで造形したエピソードも語られる。まさにソムリエではなくノムリエとして体当たりでワインと向き合ってきた亜樹直さんならではの偏愛、偏狂が詰まった至高の一冊。この名著によって人生が変わる人が現れるに違いない。

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