
- 国:イタリア
- 種類:ラガービール
- アルコール:4.6 %
- 原材料:大麦麦芽、トウモロコシ、ホップ
- 醸造所:ビッラ・モレッティ
モレッティビール。正式名称は「ビッラ・モレッティ・ラウテンティカ」
1860年夏から愛され続けてきた、イタリアを代表するビールである。米国、英国、カナダ、日本をはじめ、現在では世界40カ国以上へ輸出されている。
グラスに注げば、目を奪うのは澄んだ黄金色だ。真夏のイタリア、石畳の街を夕方まで照らしていた太陽が、最後の光だけをグラスの中へ置いていったような色。

細かな泡が静かに立ち、爽やかなホップの香りが鼻先を抜ける。そこへ、しっかりした苦味と、トウモロコシ由来の穀物のやわらかな風味が重なる。
ルイジ・モレッティから始まった物語

始まりはフリウリ地方ウーディネ。当時37歳だったルイジ・モレッティが、「ビールと製氷工場」を設立した。裕福な商人の家に生まれ、家族がオーストリア近辺と取引していたことから、穀物、ワイン、蒸留酒、食糧、ビールの卸売りにも精通していた。
モレッティには、そんな長い旅をしてきたビールの物語がある。このビールを語るなら、缶の中央にいる紳士を外せない。

1942年、当時の社長ラオ・モレッティは、ウーディネのレストラン「トラットリア・ボシェッティ」で、ひとりの紳士を見かけた。帽子をかぶり、口ひげを蓄えた男。
どこかクラシックで、気取りがなく、それでいて堂々としている。その姿に、ラオは自分たちのビールが持つ「伝統」「本物らしさ」を見た。
写真を撮らせてもらえないか。そう頼み、謝礼に何が欲しいかと尋ねたところ、紳士はこう答えたという。
「ビッラ・モレッティを、もう1杯」
なんとも粋な話である。以来、この男の姿はモレッティの象徴となった。広告を見たイタリアの男たちは、「これは自分たちではないか」と感じた。王侯貴族でも、映画スターでもない。酒場でビールを飲む、ごく普通の男。
何年にもわたってさまざまな俳優がこの「ラベルの男」を演じ、1970年代には著名なアーティスト、ブルーノ・ボツェットが、この人物を主人公とした漫画広告シリーズまで制作している。

モレッティの缶は、ビール売り場でも一度見るとなかなか忘れない。アイボリーを基調に、赤い大文字で弧を描く「BIRRA MORETTI」。そして中央には、ジョッキを掲げる帽子姿の紳士。現代的なクラフトビールのような奇抜さはない。
むしろ少し野暮ったい。洒落たレストランのソムリエではなく、町角のトラットリアで何十年も昼飯を食べてきた常連客のような安心感がある。
「難しいことはいい。まず飲め」
そんな声が聞こえてきそうだ。赤、緑、白というイタリアを思わせる色使いも含め、缶そのものが小さなイタリアの酒場になっている。高級感ではなく、人生を楽しんでいる人間の顔をラベルにしたビール。そこがモレッティらしい。
漫画にも登場するモレッティ

モレッティビールは、毎晩必ず奇跡が起こるビール専門バー「BEER CAT」を舞台にした漫画『ビールの時間』VOL.7「モレッティビール」でも紹介されている。
父親から遺された会社が倒産し、借金取りに追われ、自ら命を絶とうとした会社社長。
人生最後の酒として注文したのは、「この世で一番うまいビールをください」
その言葉に、マスターが差し出したのがモレッティだった。
味わい

最初に感じるのは、炭酸だ。かなり鮮烈である。不思議なことに、激しいのに、やさしい。舌の上を細かな泡が一気に駆け抜け、爽やかなホップの香りを運び、そのあとから麦芽とトウモロコシの穀物感が追いかけてくる。
しっかり苦い。しかし、口の中に居座らない。苦味が役目を終えると、潔く消える。真夏の午後に突然降った通り雨。激しく石畳を叩いたと思えば、数分後には青空が戻っている。あとに残るのは、濡れた街と澄んだ空気だけ。
この透明なキレこそ、モレッティの美味しさである。「世界一美味しい」と言いたくなる人がいるのも、わかる。モレッティとは、イタリアの陽光を飲むビールである。
料理とのペアリング

イタリア料理と合わせた瞬間、ビールが故郷へ帰る。
パスタを食べ、モレッティを流し込む。その瞬間、ビールの旨みとキレが一段強く弾ける。パスタの油やソースを流すだけではない。料理を受け止めたことで、モレッティ自身まで美味しくなる。
ピッツァも負けず劣らず。チーズのコク、トマトの酸味、焼けた生地の香ばしさ。そこへモレッティを流し込めば、炭酸がチーズの重さをさらい、苦味がトマトを引き締め、最後にあの透明なキレが食卓をリセットする。
そして、また次の一切れへ手が伸びる。ピッツァがビールを欲しがり、ビールがピッツァを呼ぶ。
モレッティは、ひとり静かに分析するより、大皿のパスタや焼きたてのピッツァを囲み、誰かと笑いながら飲みたいビールである。